アメリカ陸軍が、新規採用のボルトアクションMK22 ASR用の弾薬として
シグ・ザウエル 製ノルマ・マグナム弾を選択
アメリカ陸軍・海軍が使用するPSR(Precision Sniper Rifle)の弾薬を供給している シグ・ザウエル (SIG SAUER)は、今後アメリカ軍内で主要スナイパーライフルとなるMk22 ASR(Advanced Sniper Rifle)用の弾薬として、同社製の.300 Norma Magnum弾及び.338 Norma Magnum弾をアメリカ陸軍が選択したと発表した。
USSOCOM(アメリカ特殊作戦軍)が選定を進め、陸軍と海兵隊が置き換えを予定しているMk22 ASRだが、海兵隊では全てのボルトアクションをMk22 ASRへ交換することを希望しているほか、アメリカ陸軍ではその海兵隊を大きく上回る予算を割く予定だ。
Mk22 ASRとは?
Mk22 ASRはM82A1 アンチマテリアルライフルで有名なバレット・ファイアーアームズ(Barrett Firearms)が設計・製造しているボルトアクションライフルMRAD(Multi-Role Adaptive Design)のアメリカ軍での採用名。
元々USSOCOM(アメリカ特殊作戦軍)が2009年に発表したPSR要件に対しバレットが開発したボルトアクションライフルだが、その際はレミントンMSR(Remington Modular Sniper Rifle)がMk21 PSRとして採用された。その後2018年になるとMk21 PSRはその時点のUSSOCOMの要件を満たしていないと判断され、すぐさまMk22 ASRとして再度選定が行われることになり、2019年に特殊作戦軍のスナイパーライフルとして採用された。
Barrett MRADは弾薬に合わせバレルとボルトが交換可能なモジュラーライフルであり、.308ウィンチェスター弾、.300ノルマ・マグナム弾、.338ノルマ・マグナム弾に対応している。既にPSR用弾薬としてMK248 300ウィンチェスターマグナム弾を供給している シグ・ザウエル はその製造・生産能力を評価され、アメリカ陸軍の新スナイパーライフルでも弾薬3種のうち2種を担うことになる。
なお、USSOCOMは2020年に.338ノルマ・マグナム弾を使用するMG338機関銃及びマガジン、弾薬を シグ・ザウエル より購入する決定をしており、既にシグでの.338ノルマ・マグナム弾の対応は始まっている。弾頭を重くしている.338ノルマ・マグナム弾はマシンガンでの使用においてはその重量増が運用に響くため、 シグ・ザウエル では薬莢をポリマー化した軽量化についても考案しているようだ。
シグ・ザウエル が生産契約したノルマ・マグナム弾とは?
ノルマ・マグナム弾とはスウェーデンの弾薬メーカーノルマ(NORMA)社が製造する弾薬ならびにその設計に準じた弾薬を差す。
バレットMRADのメイン弾薬となる.338ノルマ・マグナム弾は、当初スポーツシューティング用のワイルドキャットカートリッジ(量産されない弾薬、量産されない銃向けのカスタム弾)として開発された。
.338ノルマ・マグナム弾の開発当時、1km以内であればボディーアーマーを貫くことができる高い威力と精度を持った.338ラプア・マグナム弾が軍用長距離弾薬として実績を納めており、既にスポーツシューターやハンターからも人気が高かった。しかし、.338ラプア・マグナム弾に使用される.338口径250グレイン(約16.2g)の弾頭では物足りないと考えたアメリカ人スポーツシューターが、同じライフルで更に空気抵抗の影響を減らせる300グレイン(約19.4g)弾頭が使用できないかと考え、薬莢サイズを見直したカスタム弾を開発した。
この設計をノルマ社が買い取り製品化し、2010年にはC.I.P.(Permanent International Commission for the Proof of Small Arms:銃器の安全基準を設定する国際機関)に認可されたのが.338ノルマ・マグナム弾である。
.338ラプア・マグナム弾よりも長い弾頭を弾薬の全長を変えずに設計し直しているため.338ノルマ・マグナム弾のケース容量は減少しているものの、ショルダー幅やテーパー角の工夫により.338ラプア・マグナム弾とほぼ同様の銃口エネルギーを持ちつつ、弾頭の重量増により遠距離での貫通力、命中精度がアップしている。
この性能に目を付けたアメリカ特殊作戦軍は.338ノルマ・マグナム弾を使用するスナイパーライフルやマシンガンを新たに採用し、各軍もそれに順応したかたちとなった。MG338用の弾薬だけでなくスナイパーライフル用の弾薬生産についても、開発元のノルマではなく シグ・ザウエル に任命したのである。これについては、アメリカ製品優先と考えたのか、資本の大きさ(生産能力・品質管理)による判断かは憶測の域を出ない。
シグ・ザウエル では.338ノルマ・マグナム弾をM1162カートリッジ、.308口径にネックダウンされた.300ノルマ・マグナム弾(既に.308ノルマ・マグナム弾という別の弾薬があるため.300としている)をM1163カートリッジとして、アメリカ軍に納入する。
シグ・ザウエルのアメリカ軍におけるここ数年の飛躍は目覚ましいものがある。M17/M18(P320)、MCX、陸軍NGSWにおけるXM5やXM250や277FURY HYBRID弾、MG338、そして今回のスナイパーライフル向けの.338及び.300ノルマ・マグナム弾と、アメリカ軍の銃器や弾薬において シグ・ザウエル の採用の勢いが止まらない。
軍用の銃器と弾薬はそれぞれのカテゴリーを得意分野とする銃器メーカーが担う傾向があったアメリカ軍だが、いまやジャンルを問わず シグ・ザウエル の存在感が強くなっていると言えるだろう。
かつてコルトやレミントンといったアメリカを代表する老舗メーカーは古い体質を変えられず、いまや風前の灯火である。 シグ・ザウエル は元々ヨーロッパ資本のメーカーであったが、銃器部門についてはアメリカ現地法人を立ち上げ既にアメリカのメーカーとして認知されている。ヨーロッパの新しいものを生み出す力と、国防の面で強いアピールポイントとなるMADE IN AMERICAを両立した シグ・ザウエル は、総合的な銃器メーカーとしてアメリカ軍での存在感を更に強くしていくだろう。